リコード法の甲状腺治療(その2検査値とその意味)

甲状腺ホルモンを血液検査で調べたことの無い方は、早速調べてみてください。 検査した事のある人は、今すぐに結果を持って来て、下に示した機能性医学に基づくリコード法の基準値つまり最適値と見比べてみてください。 多くの方は、free T3(活性のある甲状腺ホルモン、遊離T3)や、free T4(freeT3に変換前のホルモン、遊離T4)が最適値と比べると少ないのではないでしょうか?少ない人は、甲状腺機能低下状態です。体の代謝が低下した状態、各種機能が今一な状態、疲れやすいとか元気が出ないとか、頭がすっきりしないとか、なんとなく後ろ向きな性格や考え方は、このせいかもしれません。

【リコード法の基準値(最適値)】

Free T3   3.2 – 4.2 pg/ml
Reverse T3   < 20 ng/dl
Free T3:Reverse T3  > 20
Free T4   1.3 – 1.8 ng/dl
TSH   < 2 uIU/ml

【用語説明】

T4:甲状腺ホルモンの貯蔵型
Free T4:TBGと結合しているのではなく、遊離した状態で残っている甲状腺ホルモンの貯蔵形態
T3:甲状腺ホルモンの活性型
Free T3:TBGと結合しているのではなく、遊離している活性型の甲状腺ホルモン
TBG(サイロキシン・バインディング・グロブリン):甲状腺ホルモンと結合するタンパク質で、甲状腺ホルモンが血液中を移動できるようにする。
Revers T3:甲状腺ホルモンの一種で、free T3が細胞に付着するのを防ぎ、T3の作用を弱めたり、防いだりするもの
TSH(甲状腺刺激ホルモン):脳下垂体から分泌されるホルモンで、甲状腺を刺激して甲状腺ホルモンの分泌を促す
甲状腺抵抗性:細胞が遊離T3を受け取りにくくなる疾患で、血中のfree T3濃度が最適であっても、すべてのホルモンが細胞に行き渡らない。
甲状腺抗体(甲状腺ペルオキシダーゼ[TPOAb]、サイログロブリン抗体[TgAb]):甲状腺を攻撃するために免疫系が作り出す生化学物質

いったいこれらの値が、どんな意味を持っているのか、確認していきましょう。と言いたいところですが、その前に

【甲状腺とは?】から説明します。

首にある小さな蝶の形をした内分泌腺で、エネルギーの元となる腺です。なぜなら、この腺が作り出す甲状腺ホルモンは、細胞の一つ一つに力を与えるからです。甲状腺ホルモンの量と種類が適切でないと、細胞は正常に再生できず、臓器は最適なレベルで機能しません。そして、代謝が完全におかしくなり、スピードが極端に落ちたり(甲状腺機能低下症)、逆にスピードが極端に上がったり(甲状腺機能亢進症)してしまいます。

甲状腺は、1種類ではなく4種類の甲状腺ホルモンを生成しています。このシステムは、非常に複雑に正確に正しい種類と量の甲状腺ホルモンを各細胞に供給するようになっているので、少しでもバランスが崩れると、体調が悪くなります。

甲状腺ホルモンの必要性は、複雑でダイナミックなものです。超活動的であったり、特別なストレスがあったり、風邪をひくと、甲状腺の働きが悪くなります。十分な睡眠がとれていないと、やはり甲状腺は負担を負います。腸、免疫系、副腎にストレスを与える食品を食べると、甲状腺の働きが狂います。また、女性では妊娠中、産後、更年期、閉経期、男性では男性更年期のようにホルモンバランスが変化すると、甲状腺にも影響が出ます。

しかし、幸いなことに、甲状腺をサポートする方法(機能性医学に基づく治療法)を理解すれば、この重要な器官がちゃんと働きを正確に取り戻す方向に、治療を進ませることが出来ます。

【甲状腺ホルモンいろいろ】

甲状腺ホルモンには、T1、T2、T3、T4の4種類があります。

T1とT2についてはあまりよくわかっていません。存在している理由がきっとあるのでしょうが、今のところわかりません。今後もしもT1とT2について研究が進むと、あっと驚く事があるかもしれませんが、今は、私たちには知る由もないので保留ということで、T3やT4についてみていきましょう。

T4は、サイログロブリンに4つのヨウ素原子を加えたもので、甲状腺から主に分泌されます。これはホルモンの貯蔵型で、血流中を循環し、組織に貯蔵されます。しかし、T4はそのままでは細胞内に入らないので、エネルギーや代謝、症状に影響を与えることはありません。細胞に入るためには、サイログロブリンに3つのヨウ素原子がついた(T4から1つのヨウ素が取れた)活性型ホルモンであるT3になる必要があります。

T3は、甲状腺からも放出されますが、組織のT4から変換されてもつくられます。これは実に素晴らしい効果的なシステムです。血流や組織中にT4が常に存在しているということは、体がもう少しT3を必要とするときには、すぐに貯蔵庫からT4を取り出してT3に変換することができるということです。T4は銀行にある現金、T3は手にある現金と考えてください。甲状腺シグナリングシステムが最適に働いていれば、いつでも必要なときにすぐに現金を手にすることができますが、必要以上の現金を手にすることはありません。賢いマネーマネージャーのように、余分な現金は銀行に安全に保管しておくのです。

Free T3 Free T4 と T3 T4とは、どこが違うの?

検査で私たちが本当に知りたいのは、細胞を動かすためのT3の量と、T3に変換されるT4の量です。これこそが、Free つまり遊離型なのです。細胞を動かすためのT3が、遊離型T3つまり Free T3。そしてT3に変換できるT4が遊離型T4つまり free T4なのです。遊離型以外の甲状腺ホルモンは、運搬に役立つたんぱく質である チロキシン結合グロブリン(TBG)などに結合しています。体が必要とするまで、細胞や組織が利用できないようになっているのです。実際、血液中の甲状腺ホルモンの99%は結合しています。これは、体が栄養不足に陥った場合にホルモン不足になりにくくする仕組みとも考えられています。

健康な体は、適切なレベルのTBGを持っています。つまり、甲状腺ホルモンが最も効率的に働き、細胞を動かすことができるレベルです。しかし、ある要因によってTBGの生産量が変化することがあります。これもまた、バランスの問題なのです。TBGが少なすぎると遊離型ホルモンが増えて甲状腺機能亢進になる可能性があります。逆にTBGの量が多すぎると、ホルモンが結合しすぎて甲状腺機能低下になる可能性があります。

体内のTBG濃度に影響を与える要因はいくつかありますが、代表的なものは以下の通りです。

  • エストロゲン:男女を問わず、多くの人がエストロゲンに過剰にさらされています。避妊薬を服用している女性やホルモン補充療法を受けている女性は、エストロゲンが過剰になる危険性があります。また、エストロゲンと似た働きをする工業化学物質であるゼノエストロゲンにさらされている人も同様です。これらの化学物質は、空気中や食品中にあふれています。水に含まれるほか、多くのパーソナルケア製品(シャンプー、デオドラント、モイスチャライザーやローション、化粧品)にも含まれています。次に書くように単純ではありませんが、『エストロゲンや、ゼノエストロゲンが多くなる⇒TBGが多くなる⇒甲状腺機能低下』の図式が成り立つ場合も多々あります。妊娠、産後、更年期、に、甲状腺の機能がおかしくなるのはこのためです。
  • コルチコステロイド:コルチゾン、ヒドロコルチゾン、プレドニゾンなどの強力な抗炎症薬による治療を受けている場合は、TBGレベルにも影響が出ます。この種の薬は自己免疫疾患の患者に頻繁に処方されるため、TBGの乱れのリスクが高くなります。過剰なコルチゾールは過剰なエストロゲンレベルを引き起こします。そして過剰なエストロゲンは過剰なTBG、そして甲状腺ホルモン作用を低下させます。ついでに話しておくと、過剰なコルチゾールは、T4からT3への変換を抑制し、T4とからReverse T3(逆T3とかリバースT3と言います)への変換を促進し、代謝にブレーキをかけます。

Free T4 から Free T3 への変換

変換プロセスについて最初に理解すべきことは、体のどの部分がより多くの甲状腺ホルモンを必要とするかによってこの変換は、局所的に引き起こされているということです。実際の変換は、主に腸、肝臓、骨格筋、脳、そして甲状腺で行われます。これが甲状腺シグナルシステムのすごいところで、さまざまな状態にきめ細かく対応できるようになっています。胃が食物を消化する必要に迫られている場合、胃の細胞はより多くの甲状腺ホルモンを必要とします。同僚に侮辱的なことを言われたときに、自分が言い返さないように自制心を働かせているときには、脳細胞に甲状腺ホルモンが必要になります。いつもより激しい運動をして足に負担がかかった場合、足の筋肉の細胞には多くの甲状腺ホルモンが必要です。甲状腺ホルモンは、細胞の一つ一つに力を与えているので、体の色々な部位が甲状腺ホルモンを必要としているということは、緊急性があり、その必要量も常に変化しています。

甲状腺のシグナル伝達システムが複雑なのは、そのためです。体は肉体的、精神的、感情的な様々な要求に対応するために、この驚くべきシステムを開発したのです。しかし、コンピュータがそろばんよりも簡単に壊れてしまう様に、甲状腺のシグナルシステムも様々な場所で故障する可能性があります。その複雑さ、柔軟性、特異性は、何かがうまくいかない結果になる原因がたくさんあることを意味しているともいえます。

では、具体的にどのようにしてT4をT3に変換しているのでしょうか。

このプロセスに欠かせないのが、ヨードサイロニン脱ヨード酵素という酵素です。この酵素が正しく機能するためには、セレン、亜鉛、鉄が必要です。これが、甲状腺の機能を正常に保つために食事が非常に重要である理由の1つです。この酵素は、T4から外側のヨウ素原子の1つを取り除き、遊離T3に変えます。この遊離T3は、細胞内に入って力を発揮する甲状腺ホルモン活性型です。

Free T3 が細胞に入るとやっとエネルギー産生に関わります。

さてさて、その前にここでも少々問題があります。細胞内に遊離T3(Free T3 )が順調に入るためには、コルチゾールが必要です。従って、コルチゾールが十分ないと、甲状腺機能低下症状が出ることになります。その他、健康的な脂質摂取が少ないと脂質は細胞膜の原料ですから、細胞膜が劣化して、甲状腺ホルモンが細胞に入りにくくなってしまいます。

甲状腺が細胞に入って、代謝をコントロールしているという事は、ミトコンドリアをコントロールしているという事です。各細胞内にあるミトコンドリアと呼ばれる構造物は、細胞の真の発電所であり、グルコース(糖の一種)と酸素を取り込みエネルギーに変換します。Free T3は、このプロセスを調整します。

何兆個ものミトコンドリアが、血液から糖分と酸素を取り出し、細胞ごとにエネルギーに変換している様子を想像してみてください。これらの小さな発電所が協力して、エネルギーを供給しているのです。しかも、それを達成するために、すべての細胞に適切な量の甲状腺ホルモンが送り込まれ、ミトコンドリアが適切なレベルでエネルギーを産生している状態。活力に満ちた状態なのです。その状態こそが機能性医学で目指している状態ですから、自ずと機能性医学の基準値(最適値)はシビアになります。いわゆる保険診療の場合は、正常値は、誰が見てもどう考えても病気でしょう、という状態かどうかの判断をするためのものですから、大きく違うわけです。

さて、話を戻します。
これらのミクロレベルの反応は、心拍数、体重調節、エネルギーレベル、脳機能など、すべての重要な代謝プロセスを制御するために連動しています。ですから、甲状腺が正常に機能していないと、これらのシステムのいずれか、またはすべての細胞機能が阻害されます。その結果、関連性がないように見える様々な症状(一般診療で甲状腺機能障害が診断されないことが多いのはこのためです)が出てきますが、それらの様々な症状はすべて甲状腺にさかのぼることができます。

reverse T3は、何でしょう?

やっと出てきた、そして、BFLクリニック以外のクリニックではめったに測定していないものが、この reverse T3です。
実はこれも、細胞内の甲状腺とエネルギー生産の微妙なバランスを調整する方法の一つです。

reverse T3はT3と同様、T4から作られます。T4は、その外側のヨウ素原子の1つが取り除かれるとT3になることは、前に書きましたが、T4の内側のヨウ素原子が1つ取り除かれるとReverse T3になります。

T4と同様、reverse T3は不活性で、細胞内のエネルギー生産を調節したり、刺激したりすることはありません。reverse T3は、通常なら遊離T3が結合する細胞内の受容体に付着します。reverse T3が受容体を占めれば、遊離T3が入る余地が少なくなります。これは、細胞内の遊離型T3の量を調整する体の賢い方法です。遊離型T3がミトコンドリアのエンジンを回す燃料だとすれば、reverse T3は全体を減速させるブレーキペダルのようなものと考えてください。

Free T3:Reverse T3 フリーT3とリバースT3の比率を見るためにも、Reverse T3の測定が重要なのです。この2つの測定値は、細胞内で実際に何が起こっているかを示す重要な指標であり、細胞が適切な量の燃料を得ているのか、それとも過剰なブレーキをかけているのかを知ることができます。残念ながら、日本では、医師の多くはReverse T3の検査を行っていません。

以上、甲状腺ホルモンについて色々書きましたが、次回は、他の検査値についても見ていきます。